
今回はちょっと欲張って、7カ国語まとめて聴き比べてみることにした。
きっかけは単純で、家で一人で夕飯を食べながら「今日も『いただきます』も『ごちそうさま』も、誰にも言わずに黙々と食べてるな」とふと寂しくなったことだった。だったら、いっそ色んな言語の「食にまつわる挨拶」を集めて、口の中で転がして楽しんでやろうと思った。
というわけで、独断と偏見で選んだ7言語の「乾杯」と「ごちそうさま(的な表現)」を並べてみる。
フランス語:Santé / C’était délicieux
「乾杯」は「Santé(サンテ)」。もともと「健康」という意味の単語で、「あなたの健康に」というニュアンスが込められている。短くて、パッと言いやすいのがいい。
「ごちそうさま」に完全一致する表現はないんだけど、「C’était délicieux(セテ デリシュー)」=「美味しかった」でだいたい代用される。「délicieux」の「デリシュー」という響き、なんだかそれ自体が美味しそうな音をしている。
イタリア語:Cin cin / Era buonissimo
「Cin cin(チンチン)」。初めて知ったとき、日本語話者としてはどうしても笑ってしまった単語ナンバーワンだと思う。グラス同士がぶつかる音を模した擬音語らしく、可愛らしい響きだ。
食後は「Era buonissimo(エラ ブォニッシモ)」、「とても美味しかった」。「buonissimo」は「buono(美味しい)」の最上級で、語尾が伸びる感じが、食後の満足感をそのまま音にしたみたいだと思う。
スペイン語:Salud / Estaba delicioso
「Salud(サルー)」。これもフランス語の「Santé」と同じく「健康」を意味する。ラテン語ルーツの言語では「乾杯=健康を願う」という発想が共通しているのが、並べてみると面白い。
「ごちそうさま」は「Estaba delicioso(エスタバ デリシオソ)」。以前の記事(スペイン語の謝罪文化の回)でも触れたけど、スペイン語は感情表現がわりと外向きに出る言語なので、この一言も声のトーンが自然と明るくなる。
ドイツ語:Prost / Es hat geschmeckt
「Prost(プロースト)」。短くて力強い音で、いかにもビールジョッキを打ち合わせる勢いにふさわしい。前回のドイツ語記事で「子音の詰まり方が格好いい」と書いたけど、この単語もその系統だと思う。
「ごちそうさま」は「Es hat geschmeckt(エス ハット ゲシュメクト)」、直訳すると「それは美味しく味わえた」。ドイツ語らしく、少し理屈っぽい構造をしているのが個人的に好きだ。
韓国語:건배(コンベ) / 잘 먹었습니다(チャル モゴッスムニダ)
「건배(コンベ)」。漢字で書くと「乾杯」、そのまま日本語と同じ語源だ。音も近いので、聴き比べの中では一番親しみやすい響きだと思う。
「잘 먹었습니다(チャル モゴッスムニダ)」は「よく食べました」。日本語の「ごちそうさま」と発想がかなり近くて、食事を作ってくれた人への感謝のニュアンスも含まれている。このあたり、隣国だけあって文化的な距離の近さを感じる。

タイ語:ชนแก้ว(チョンゲーオ) / อร่อยมาก(アロイマーク)
「ชนแก้ว(チョンゲーオ)」は直訳すると「グラスをぶつける」。動作そのものが言葉になっているのが面白い。
「อร่อยมาก(アロイマーク)」は「とても美味しい」。「アロイ」という響きがすでにふわっと軽くて、聞いているだけで楽しい気分になる。タイ料理店で店員さんに「アロイ!」と言うと、だいたい嬉しそうな顔をされる。これは実体験。
ロシア語:За здоровье(ザ ズダローヴィエ) / Было очень вкусно(ブィラ オーチェニ フクースナ)
「За здоровье(ザ ズダローヴィエ)」、これも「健康のために」という意味。乾杯の発想が「健康を願う」という点で、ヨーロッパ圏に広く共通していることが、こうやって並べるとよくわかる。
「Было очень вкусно(ブィラ オーチェニ フクースナ)」は「とても美味しかった」。子音が重なる響きは、前回のドイツ語の話と同じく、なんとなく力強く格好よく聞こえる。ロシア語も音の強さでいえば負けていない。
並べてみて気づいたこと
7言語まとめて発音してみると、面白い発見がいくつかあった。
まず、「乾杯」の語源は、ヨーロッパ言語圏だと圧倒的に「健康を願う」という発想が多い。Santé、Salud、За здоровьеと、根っこが同じ発想でできている。一方でタイ語の「グラスをぶつける」は、動作そのものを言葉にしていて、発想の出発点が違う。
そして「ごちそうさま」的な表現は、言語によって「美味しかった」という感想型と、韓国語のように「よく食べた/感謝」という型に分かれる。日本語の「ごちそうさま」は感謝型に近くて、韓国語との親和性がやっぱり高い。
こういう比較、テストにも受験にも一切役立たない。でも、次に外国の人と食事をする機会があったら、その国の言葉で乾杯してみたいなと素直に思える。それだけで十分な収穫だと思っている。



コメント