
先に白状しておく。僕は一度、カフェで巻き舌の練習をして、隣の席の人にギョッとされたことがある。
「舌を震わせる」なんて発想、日本語にも英語にもほとんど存在しない動きだから、練習中の姿はだいたい変な顔になる。人前でやるものじゃない。今日は、その反省を踏まえた「誰にも見られずに、こっそり習得する裏ワザ」を書く。
そもそも、英語の「L」と何が違うのか
まずここを整理しておきたい。英語の「L」は、舌先を上の前歯の裏あたりに軽く「当てたまま」発音する音だ。舌は静止している。
一方でスペイン語の巻き舌「R」(rr、または語頭のr)は、舌先が上顎に何度も連続して「触れては離れ」を繰り返す。つまり、静止と振動という、そもそも運動の種類が違う。英語脳のまま「L」の要領で頑張っても、絶対にできない理由がこれだ。舌の動かし方そのものを、一から作り直す必要がある。
定番の「巻き舌トレーニング」がうまくいかない理由
よくある指導法に、「舌を思いっきり震わせて”rrrrr”と言ってみましょう」というのがある。正直、これは多くの人にとって不親切だと思う。いきなり「震わせろ」と言われても、震わせ方がわからないから震わせられない、という無限ループに陥る。
僕も最初の数週間、これで完全に詰んでいた。
裏ワザ:英語の「butter」を使う
ここからが本題。この裏ワザ、アメリカ英語の発音の癖を利用する。
英語の「butter」や「better」、アメリカ英語で発音すると、真ん中の「tt」の部分が「ラ行っぽい音」になるのを知っているだろうか。「バラー」「ベラー」に近い音だ。これは「タップ音」と呼ばれる現象で、舌先が上顎に一瞬だけ軽く触れて跳ねる動きをしている。
この「タップ音」こそが、実はスペイン語の巻き舌の”種”になる。
やり方はこうだ。
- 「butter」を早口でアメリカ英語っぽく5回繰り返す。「バラバラバラバラバラ」に近い音になるはず。
- その「バラ」の部分だけを切り出して、連続で言ってみる。「ラララララ」。
- 舌先が上顎に連続で当たる感覚を覚えてきたら、そのまま息を強めに吐きながら同じ動きを続ける。
これだけで、単発のタップ音が連続した「振動」に変わっていく。多くの人はこの3ステップで、生まれて初めて舌が震える感覚を掴める。
なぜこれが「誰も傷つかない」のか
理由は単純で、「butter」の練習は、傍から見たらただ英語の発音練習をしているようにしか見えない。人前でやっても、誰にもギョッとされない。僕がカフェで晒した恥は、この裏ワザさえ知っていれば避けられたはずだった。
しかも、いきなり「震わせろ」と言われるより、「聞き慣れた英単語」を経由するぶん、心理的なハードルがかなり低い。英語という、すでに馴染みのある言語を踏み台にして、未知の動きに近づいていく。この感覚、この連載でずっと書いてきた「英語は踏み台」という話と、発音の次元でも繋がっている気がしている。
それでもできない人へ
正直に言うと、この裏ワザでも一発でできない人はいる。舌の使い方には個人差があって、数週間かかる人も普通にいる。僕自身、安定して巻き舌が出せるようになるまで、だいたい3週間かかった。
焦らなくていい。「butter」を唱えながら、気長に付き合うくらいの気持ちでちょうどいいと思う。
おわりに
英語の「L」とスペイン語の巻き舌、運動の種類がそもそも違う。でも遠回りに見えて、英語の発音の癖を借りることで、案外近道になる。次は、フランス語の喉を鳴らす「R」にも、同じような裏ワザがないか探してみようと思っている。


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